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Column【コラム -琉球新報より 共に考える住宅デザイン-】

琉球新報より 共に考える住宅デザイン ― 金城 豊

vol.003 南風原町にある高床の家
住宅デザインを考えるとき、現在、自分のできる範囲で、自分の家族のための「快適な住まい」を得ようと努力している。我々の祖先も同じ努力を過去数千年にわたって続けてきた。しかも、我々の祖先は「住まいをつくる」という面ですばらしい才能を持っていた。

沖縄の古 い集落は、山や丘の傾斜地の南面を利用して形成されているものが多い。
それは沖縄の亜熱帯特有の気候条件から生み出された祖先たちの生活の知恵である。もちろん生活のあり方も、家をつくる材料や工具もちがっていた。
南風原町の古い集落にある高床の家。
庭を眺める視線の高さに変化をつけるため床を持ち上げる。
床の記憶
昔の住まいを、そのまま現在の我々の住まいの手本にすることはできない。しかし、現在でも設計を依頼してくる方々には、中国から伝来したものだと思われる風水術を大事にする心が残っていると実感している。風水術は、風は風、水は水、その流れ(自然)に逆らってはいけないという意味を持ち、これらの伝統は、風土的な条件によって変化する気温や湿度、山や海、風量や雨量など変化に富んだ地形のなかで、より快適に暮らそうとする人々の生活能力の蓄積から生まれてできたものと考えている。

もちろん生活のあり方も変化し、住まいを築きあげていく素材や技術も、昔に比べてはるかに進展した現代の生活にも、そのなかにある程度、伝統的な住まい方が残っているのは当然のことだと感じている。
この「高床の家」 と題された住宅は、南風原町のこのような古い集落の中にあるが、高床だけを意識した住宅ではないのである。
隙間から散策路へと機能をもたせる
床を持ち上げるということは、沖縄のように雨量・湿度の多い地方では快適な住まいをつくる上で重要なことだと思う。

この住宅に興味を持つところは、住まいの原始的な形の2つの流れが併存していることである。

高床と土間の2つの床が、後方の小高い丘の背にして前庭を眺める視線の高さに変化をつけているところである。床を上げるということは、沖縄のように、雨量、湿度ともに多い地方では、快適な住まいをつくるうえで、重要なことだと思う。
もっとも炊事をしたり、屋外と直接つながっていた方がよい仕事場としては、高床は不便であり、土間の方が火を扱うために、安全である。

この高床式の空間は家内労働とは関係のない居間として扱われており、家内労働を是非とする炊事場は、土間式の空間として対比するような意識で計画されているのである。沖縄の民家もこのような、高床と土間とを同じ屋根の下に併せもった形で発展してきた住まいの姿である。この2つの床の歴史的な事実から学ぶことは多いと思う。

二重の意味を持つ床の上で行われる生活を実証しながら、現代において設計しているということは、人間の生活には変わらずに継承されていくものが数多く内包されているということを、時代を超えて教えてくれているような気がする。


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