Jo Architecture & Design Office【門一級建築士事務所】

Home > column

Column【コラム -琉球新報より 共に考える住宅デザイン-】

琉球新報より 共に考える住宅デザイン ― 金城 豊

vol.008  伝統が融合する過程
日頃から日常生活の延長線の上で住宅デザインを考えてみたいと考えている。

最近、影絵劇(ワヤン)で、組踊「執心鐘入」を表現する上演会を豊見城市にある伊良波中学校の中庭で見学した。影絵で用いる道具や音楽がすべて中学生の手作りというから驚かされる。
文化の異なる2つの伝統を巧みに融合させて観客を楽しませていた。

非常に精妙で綺麗な影絵で、影絵の人物や鬼女への変身が光源によってスクリーンに立ち現れたまま立ち去るのは、まったく神秘的に見えた。
ここでの影は、光に対する影というような対立的な影でなく、光源そのものに距離をつくりだし、演出をどんどん変化させるというダイナミックな影を感じさせていた。静止状態の影では、時間も空間もない。

しかし、あの影の動きが時間と空間を作り出しているのだ。
光源のとり方も面白く、ボヤーッとしたところを活かし、近づけるとコントラストがシャープになり、動きの多いところはぼかす事を意識的に使っている。

音楽は、鳴り響いたかと思うと、その後を影が追ってくる。
ここでは、音楽自体も影の分身であり、精神構造に深い関わりがあるのもイメージできる。まるで、何か鮮やかな夢を見ているようでいて、何も見ていないような一種不思議な気がしてならなかった。
ジャワ島には影絵芝居など数多くあり、総称してワヤン「影」と呼ぶ。魂の奥底にある情念を、表す言葉でもあるようだ。

影絵劇(ワヤン)で組踊「執心鐘入」を表現している。スクリーンに映し出される光と影の二重の光景をバックにしてコントラストのある情念を表現する。
陰影をデザインする
もしかすると、この光と影という二重の光景をバックにしてコントラストをつくるというデザイン効果のある表現を、現代の建築デザインに置き換えても表現できるかもしれないと真剣に考えていた。

最近の住空間のデザインに対する意識は、人間が生活する空間を新たに組み立て、いかにして生命力のある空間をデザインすることができるかと考えることが重要だと感じている。
また、「仕掛けのあるデザイン」を日常の生活空間の中で提案し、それを意識しながら生活することだと思っている。

このためには、空間自体を機能的な判断や見た目だけの判断で、設計するのではなく、合理的な空間の配置のみによって、すべての人間のための生活空間が解決されるという意識を積極的に無くしながら建物を計画していく事だと実感している。

新たな生活をデザインしていくためには、表層的な住宅をデザインするだけではなく、光と影の世界で繰り広げられる空間が象徴するかのような、この時代に生きている人間の心の奥底にある情念を、意識的に日常の空間の中へとデザインする必要があると考えている。
薄暗いアプローチに中庭の明かりが鮮やかな影を地にして、風による植物の影の動きがうかがえるようなエントランス。設計はレム氏により福岡県に存在している。
様々な光源を背景にして室内の住空間に動きのある影を生活の一部として楽しむ。光源そのものに距離をつくりだす演出。設計は筆者により宜野湾市に存在している。
空間に存在する背景の心
異なる文化の融合という表現は、積極的にお互いの文化を肯定し、創造的に伝統芸術を継承しているのである。
伝統は創造物を作り出す行為において、インスピレーションを引き出すためになくてならないものだと教えてくれる。

これからは、さまざまなものをつくっていくときの方法や表現として、ただ表面的に取り入れるだけでなく、作り手の姿勢のあり方や考え方として、伝統をとらえていきたいと思うのだ。

伝統は、そこに生活しているさまざまな人たちにとって、創造性を高める材料として関わりあいをもつものだと確信させられる。
伝統は、はるかなる時と職業の枠を越えて、さまざまな人々に夢を与え続けている。
人間の初源的な真実の姿は、その本質の表現であるが故に夢を与えてくれているのだろう。

vol.007 Column_Top vol.009