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Column【コラム -琉球新報より 共に考える住宅デザイン-】

琉球新報より 共に考える住宅デザイン ― 金城 司

vol.011 火と囲炉裏
小学生の頃に体験した一泊二日の宿泊体験学習や中学・高校と学生時代に楽しんだ学園祭や修学旅行。そんな中、みんなで火を取り囲みいろいろな事をやったキャンプファイヤーの思い出は誰しも心の中にひとつやふたつはあるのではないであろうか。

歌を歌ったり、躍ったり、みんなの前で芸を披露したりと色々な事を体験し楽しんだものである。みんなで火を取り囲むとなんだか一つ一つのお互いの心が自然と一緒になっていくような不思議な感覚が好きであった。無言で火を見つめているだけでも何だかみんなとの連帯感や一体感を感じる事が出来た。
和室と囲炉裏庭が一体的に計画され、内外の繋がりを曖昧にする。
自在鉤は施主自ら製作したもの。

火のもつ魅力の再発見
そんな身体的感覚の記憶は学習によっても学んだものではない。どちらかと言えば本能として身に付いている人間らしさの一つだと私は思うのである。

そんな身体的感覚の心地よい空間を取り込む事が住宅建築を計画する上では大切な事だと常日頃から考えている。

そんな中、今回紹介する住宅には和室の延長線上の木デッキに「囲炉裏」を計画した。発案者は施主本人。家を建てる時には是非「囲炉裏」を取り込んだ家にしたかったと長年暖めてきた構想を嬉しそうに聞かせてくれた。

囲炉裏と聞いて共感し、この住宅の大切な家族の場になるよう計画したいと思うようになった。私の実家にも囲炉裏があったからである。

沖縄の冬は短い。されど囲炉裏がある事で今でも年末年始の楽しい思い出が思い起こされるのである。大晦日の晩に囲炉裏に火をくべ毎年のように家族で年越しを楽しみ、新年を迎えたものであった。泡盛を片手にだんまりと火を見つめる親父の膝元へ寄り添い、興味津々と炭火をいじる子を叱りつける母。

そんな母の囲炉裏でつくった鍋料理はまた最高に贅沢な味であった。そんな他愛もない、家族の風景が意外と今は珍しくなりつつあるのかもしれない。
炉を囲み会話を楽しむ
無言で火を見つめているだけでも何だかみんなとの連帯感や一体感を感じることができた。火には不思議な魅力がある。

輪になって座ること。
この大切さを囲炉裏を通して感じた気がする。火を取り囲み輪になって座る事で、自然とお互いの顔が良く見えてくるからである。

話す人は聞く人の表情や反応を見ながら話し、聞く人もその人の表情や身振り手振りを見て聞くので、会話がはかどり、身体をとうして生まれてくる親近感や信頼感が自然と育まれる。席の数も椅子のように定員が固定されないので、大人から子供まで自然と会話の中に入ったり抜けたりと曖昧な膨らみが楽しめた。

囲炉裏の火には心がひきつけられる不思議な魅力がある。そこに流れるゆったりとした時間。そこから生まれ育まれる家族の絆。

そんな何気ない暖かな家族の居場所が提案できるようこれからも施主と共に2005年の住宅デザインを模索していきたい。


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